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「兄君!兄君!」
日頃の礼儀も忘れて、樺殿が花園殿の部屋に転び込んだのは、阿闍梨が去った直後のことである。
「何だ?!」
珍しく花園殿は迷惑そうに顔を上げた。
琵琶の絃を張り替えているところだった。琵琶は繊細なもの。
何やら樺殿に踏まれそうな気でもしたらしい。いや、その荒々しい足音で、琵琶が壊れるかもしれないとも思ったのか。
樺殿も慌てて、
「おわわっ!」
と、琵琶を飛び越えていた。
公達にあるまじき騒がしさである。
「何事だ?はしたない」
「す、すみません……」
樺殿は急にしゅんとなって、花園殿の傍らにちんまり座った。
花園殿は琵琶をそっと床に置くと、ゆっくり振り返る。
「さように慌てて、何?」
「はい……」
「余程な大事と見ゆる」
「はい」
樺殿は気を取り直して、例の竹簡を見せた。
「唐土で書かれたという予言の書です」
花園殿は眉を吊り上げた。
樺殿はそっと竹簡を開く。そして、先ほど阿闍梨に教わった通りに読み上げた。
「東海姫氏の国、百世天工に代わる……」
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