花園の羽林

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「如何でございましょうや、我が家の桜は?洞院の殿の嵯峨の紅葉には劣りましょうが」  花園殿が声をかけると、洞院殿はにっこり笑った。瞳がうっとりしているようでもある。 「いやいや、見事見事。我が山荘は足元にも及びませぬ。特に、池水に映る花の姿がいい。我が観嫦娥殿(みづきどの)の庭に持ち帰りたいくらいです」  ここが花の名所なら、洞院殿の嵯峨の山荘は紅葉の名所である。特に、洞院殿が観嫦娥殿と称した月見のための建物からの、秋の眺めは格別素晴らしい。 「春の赤い月もなかなか風情のあるものですよ。我が家にこの桜を移し植えたら、きっと嫦娥も喜び舞い遊びましょう」 「それはなかなか」  花園殿も想像してみて、興が湧いた。 「それにしても、月見の御殿に観嫦娥殿と名付けられます洞院の殿の発想に感服致します。因みに、洞院の殿なら、この庭にどんなあだ名をお付けになります?」 「そうですなあ。常棣の華とは申しますが、まさしくこの御庭はその通りで」 「『詩経』ですか。さすがは」 と花園殿は褒め、よいきっかけとばかりに、一番訊きたいことを切り出した。
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