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俊幸は、信時の母の叔父である。信時の母は、身分卑しい女の腹から生まれていた。つまり、叔父とはいえ、俊幸は身分が低い。信時やその母には、臣下という立場で仕えていた。
信時は、それでも俊幸に対して、肉親の情を感じている。乳父よりも、俊幸に懐いていたし、俊幸も、まるで孫を見るように、目に入れても痛くないというような、可愛がり方であった。
やがて、従者と共に現れた俊幸は、温和な人柄をそのまま顔にした老人だった。
「お呼びで、若君?」
「おお、おおじ。ちょっとそこまで、つき合わぬか?」
「ほあ?どちらへ」
「まあ、よいから」
「はあ?」
信時は、すたすたと先を歩き出してしまった。そして、そこに繋がせておいた馬に乗る。
慌てて俊幸もついて行った。
しばらく馬を歩かせていると、本当に炎天下がこたえる。
「それにしても、暑うございますなあ」
老人の、鈍い感覚にさえ、それは激しく訴えてくるのだ。日なたの気温は凄まじい。
やがて、信時は、前方に簡素な庵を見つけた。
それを通り過ぎると、目当てのものが目に飛び込んでくる。
「あれだな」
「はい?」
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