火星

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 とはいえ、あれから数年経つが、何事もなく今日に至っている。  しかし、あの日、あの妙な出来事に遭遇してからというもの、この兄弟の興味はすっかり東海姫氏国になってしまった。忘れたように見えていた樺殿とて、実は花園殿以上に気になっていたのである。  その後、樺殿は陸奥守になっていた。彼は陸奥に下向し、今、都にはいない。  早くもかの地で子を儲け、父となっていた。  樺殿の子は男子で、後に陸奥に土着して、則顕と名乗ることになる。  父となっても、また、遠く陸奥にあっても、仲睦まじいことこの上ない兄弟は、日を置かず互いに消息(しょうそこ)を送り合い、常に様々な話題に興じ合っていた。  さて。陸奥は蝦夷の地に近く、また、蝦夷の末裔や混血児も混在している場所である。都では聞かぬような珍しい話で満ち溢れていた。  中には、大陸と行き来している者さえいる。大陸から渡来してきたらしい人々もいた。  樺殿は初めて大陸との接点を持ち、陸奥守の立場を越えて、積極的にそれらと交わるようになった。そして、私的に組織さえ作り始めて、大陸や半島と密貿易しようという有り様である。
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