45人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
俊幸は、柄杓を放り出し、健脚でもう、そちらに向かって歩き出していた。信時もすぐにその後に続く。
俊幸がその草むらに至ると、やはりそこに横たわっていたのは、人であった。間違いなく、人間の女が地にうつ伏している。
白い衣の黒髪長き女。傍らに、樽が転がっている。
「しっかりなされ、いかがなさったか」
女の背に手をやり、体を揺すってみるが、全く反応がない。
信時が追いついて、
「どうだ?」
と尋ねた。
「はあ、気絶しておりますな」
俊幸は女の体をくると横に転がして、仰向けにさせた。初めて女の白い顔が見えた。
「こ……」
二人は息を呑んだ。
これは。真っ白な芍薬の花を思わせる。精霊か何かのような、まだ若い女である。透けるような色の白さ。日に透けて、そのまま消えてしまいそうだ。
俊幸は女の背に手を置いたまま、身動きできずにただ目をぱちくりさせるばかりである。じっと女の白い顔を見ている。と突然、その白い額に、他人の手があてられるのが見えた。
最初のコメントを投稿しよう!