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診察室に、僕と先生の呼吸音と母の荒くなった声が不協和音となり響きあっている。
目に映る全ての動きがやけに遅くて、思考をやめない脳がぐるぐる痛みだす。
「残念ですが、今の医療では進行を抑える、遅めることしかできません」
医者は申し訳なさそうにうなだれた。
それにあわせ母はわーって泣き出す。
そんななか、僕だけが現実についてけないでいた。
少し理解できたのは、僕は記憶が消える病気ってことだけ。
明日また、いつも通り僕は笑えるだろうか……
泣き喚く母を見ながらそんなことが頭をよぎった。
ちょっとした物忘れの積み重ねが記憶のリセットの始まりだと、僕も母も予想はしてなかった。
ただ一応病院で見てもらえば安心だろうってノリだった。
だからショックがよけい大きくなったのかもしれない。
これからに不安を抱きながら、診察室の窓から見える重たい雲を視野にいれた。
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