第1章

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あてもなく歩く。 夕方、暗くなりかけた道路には帰宅を急ぐ人の急ぐ足音。 それと、車が時々通り過ぎて。 きっと俺は不審者のように見えるんだろうな… そう想いながら、 団地の中の三角公園で足を止めた… 小さな公園。 子供が忘れたボールだけが、 寂しそうに転がってる。 あのボールと同じなんだろうな…俺は 帰りたくもない。 帰ると現実と向き合わなきゃいけないから。 麻美 あの頃に戻りたいよ… 頭が痛い。 今朝からなんか頭痛がしてたんだ。 寒さもなんか感じない。 寒いはずなのに… そんなことに神経は使えないんだ。 ベンチに少し横になる。 切ってた電話の電源を立ち上げて、待ち受けの麻美に話しかける。 「兄妹なんだって。 俺たち。 信じられるか? 俺は信じないよ… 麻美? 愛してる…」 愛してるんだ。 愛してる。 なんで離れなきゃいけないのか。 そもそも兄妹で愛し合って何が悪い? 一緒に育ったわけでもなければ、 お互いの存在を知ってたわけでもない。 突然にそんなことを言われて離れなきゃいけないなんて、 余りにも酷すぎる。 麻美を連れてどこかに行こうか。 誰も知らないところで、 ひっそりと… 二人で暮らす。 兄妹と言っても父親は違うわけだし、 全くのそれとは違う。 ツタンカーメンは実の姉と結婚したそうだ。 お世継ぎは生まれなかったらしいけど。 少数民族は血の濃い身内と結婚すると聞いたことがある。 それしか相手がいないから。 だから、 人数が少なくなって、 滅んでいくのだろうけど。 子供なんて作らなければいい。 麻美がいればそれでいいんだ。 麻美だけで。 それだけで…
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