42人が本棚に入れています
本棚に追加
真冬の車の中は冷たい。
エンジンが暖まるまで暫くかかる。
だけど、
そんなことは今感じない。
住宅地の坂を下りて、
暫く行ったところの公園の駐車場に車を停める。
夫はそれまでなにも聞かない。
気持ちの整理をさせてくれてるのか…
「どうした?
そんな顔して。」
やっと口を開いたのは、
車を降りて、暖かい缶コーヒーを買ってきてくれてからだった。
「あなた…
あなたに嘘を付いてたことがあります。
それは…
前の結婚で子供が居ると言ったこと。
その子の事なんです…」
「前の旦那が会わせてくれないと言った子か…?
逢ったのか?」
きっと夫は良かったと言ってくれるだろう。
あの子が、
毅くんじゃなければ。
私は…
あの子について、
本当のことを話した。
死のうと思って、あの施設の人に助けられたこと。
そこに預けて、あの旅館で働き始めたこと。
迎えにいこうと思いながら行けなくて、
あなたに出逢ったこと。
本当のことを言えなくて、
今まで来てしまったこと。
「何で話してくれなかった?
由美の子供なら喜んで引き取って自分の子供として育てたのに。」
そう。
今なら解る。
あなたならきっとそうしてくれたこと。
だけど…
あの時は自分のことがイヤで、嫌いで…
自信がなかった。
あなたに嫌われたら…
そう思うと、
どうしても言えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!