第1章

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真冬の車の中は冷たい。 エンジンが暖まるまで暫くかかる。 だけど、 そんなことは今感じない。 住宅地の坂を下りて、 暫く行ったところの公園の駐車場に車を停める。 夫はそれまでなにも聞かない。 気持ちの整理をさせてくれてるのか… 「どうした? そんな顔して。」 やっと口を開いたのは、 車を降りて、暖かい缶コーヒーを買ってきてくれてからだった。 「あなた… あなたに嘘を付いてたことがあります。 それは… 前の結婚で子供が居ると言ったこと。 その子の事なんです…」 「前の旦那が会わせてくれないと言った子か…? 逢ったのか?」 きっと夫は良かったと言ってくれるだろう。 あの子が、 毅くんじゃなければ。 私は… あの子について、 本当のことを話した。 死のうと思って、あの施設の人に助けられたこと。 そこに預けて、あの旅館で働き始めたこと。 迎えにいこうと思いながら行けなくて、 あなたに出逢ったこと。 本当のことを言えなくて、 今まで来てしまったこと。 「何で話してくれなかった? 由美の子供なら喜んで引き取って自分の子供として育てたのに。」 そう。 今なら解る。 あなたならきっとそうしてくれたこと。 だけど… あの時は自分のことがイヤで、嫌いで… 自信がなかった。 あなたに嫌われたら… そう思うと、 どうしても言えなかった。
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