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「ねえ、君。その制服って、一高のだよね?」 その日は記録的豪雨とかゲリラ豪雨とかなんだかで、すごい雨だった。 雨に濡れた駐輪場で、ずぶ濡れに濡れた男。 夕方から降ることを知らなかったのだろうか。 この豪雨は二、三日前から連日ニュースで流れてたっていうのに。 夏に入る少し前だといっても、寒い日は今日みたいにとても寒い。 ずぶ濡れの男の唇はとても真っ青で、少しだけ震えていた。 「…そっすけど、あんた、誰っすか」 それを隠そうとしているのか、気丈に振る舞いたいのか。 どちらでもいいが、男は何事もないかのように紫色になった唇を動かした。 「ああ、ごめんね。僕、そこの卒業生で…今、僕の知り合いがそこで、教師として働いているんだ。その知り合いもそこの卒業生なんだけれどね」 だからなんなんだ、という話だ。 朝の通勤時に見かけた、という偶然もなければ俺は全くの初対面でこの人なんて知らないし、この人の人脈だって微塵も興味ない。 第一、何故話しかけられたのかもわからない。 「相原 紀一っていうんだ。去年赴任したばかりだと思うんだけれど…」 「すんません、今急いでるんで俺行くっすね」 たしかその時は無理やり遮って、豪雨の中、俺は自転車をこぎだしたんだ。 その後、あの男がどうなったのか分からず終いで。
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