2/6
前へ
/20ページ
次へ
光を、見た。 「で、なんだ、坂巻」 「……、いや、なんでもないっす」 「なら早く戻れ、授業始まるだろーが」 眩しくて眩しくて。 目を瞑っても、瞼を抜けてまで、光は目を刺激した。 『相原 紀一を、知ってる?』 数日前の記憶を思い起こす。 雨でずぶ濡れになって、柔らかそうな髪はずいぶんと湿っていて。 その髪は彼の顔を隠していたけれど、なんとなく。 …なんとなく、美人だと、思った。 「……いや、違うな」 美人と言うより、 「儚い」 口にすればさらに、確証を得たような気がした。 何も変わらない日常。 誰かがそれはとても素晴らしいことだと言った。 何が素晴らしい? 到底理解できないような、戯言。 「坂巻」 今朝、確かめたいことを口実に、会いにいってみただけだったのに。 「……なんすか、相原先生」 「ちょっと、進路指導室に来い」 担任じゃないのに、何故。 心の中で思うだけにして、留めた。 彼の纏う雰囲気が、少し険悪だったから。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加