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光を、見た。
「で、なんだ、坂巻」
「……、いや、なんでもないっす」
「なら早く戻れ、授業始まるだろーが」
眩しくて眩しくて。
目を瞑っても、瞼を抜けてまで、光は目を刺激した。
『相原 紀一を、知ってる?』
数日前の記憶を思い起こす。
雨でずぶ濡れになって、柔らかそうな髪はずいぶんと湿っていて。
その髪は彼の顔を隠していたけれど、なんとなく。
…なんとなく、美人だと、思った。
「……いや、違うな」
美人と言うより、
「儚い」
口にすればさらに、確証を得たような気がした。
何も変わらない日常。
誰かがそれはとても素晴らしいことだと言った。
何が素晴らしい?
到底理解できないような、戯言。
「坂巻」
今朝、確かめたいことを口実に、会いにいってみただけだったのに。
「……なんすか、相原先生」
「ちょっと、進路指導室に来い」
担任じゃないのに、何故。
心の中で思うだけにして、留めた。
彼の纏う雰囲気が、少し険悪だったから。
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