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閑散とした空気の中、二人。 やっと暗くなったと思ったのに、また眩しくなった。 「……なんで、先生はそんなに眩しいんすか」 沈黙が嫌だったわけではない。 相原と話したくなかったわけではない。 ただ、思ったことを口にする性格故。 「……お前、やっぱり」 担任じゃない。 担当教科もない。 接点もない。 滅多なことがなければ話すことも、会うことも絶対と言い切れるほどないのに。 「……目、」 担任でさえ気がつけない欠陥を、この人は気がついた。 「……見えないわけじゃないんすよ、失明じゃないんす」 「じゃあ、」 「でも、人の顔、周りの建物、足元は見えない」 「…、」 「……全部、ボヤけてるんす。水彩画みたいに」 「コンタクトは?」 「しても意味がないんすよ、俺の場合。病気じゃ、ないんす」 驚愕、疑問、複雑。 負が入り混じっているような表情。 この表情を『視た』のは、何年振りだろう。 「………天性、というか。感性、というか。一般的には『共感覚』と、呼ばれてます」 「きょう、かんかく…」 「…共感覚にはたくさんの種類があるんす、大体2000人に1人が該当するんす」 色々諸説はあるものの、担当医から受けた説明はこれだった。 「………俺は、二つあるんす」 一つは、人の色が視える『視覚』。 「…………二つ目は、聴覚っす。音から色を感じられるんすよ。風の音にも、音楽にも、どんなに小さな音にでも」 俺の世界は、いろんな色で溢れてる。 「無神信者すけど。神は二物を与える代わりに、俺の目を奪ったんすよ、簡単な話」 ビー玉を太陽に透かしたような、幻想的な色。 「だから視覚がぼやけて見えなくても、色を視て、音を感じられれば、それなりのことはできるんす」 淡く、儚い。 「………先生の色、教えてあげましょうか」 その色がどこか、 「先生は………ーーーーー」 あの雨の日の、ずぶ濡れの男の人と被った。
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