第1章 平穏の終わり

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インセクトピアの王国周辺は、時折魔物が出没することがあり、王国の住民たちは魔物との戦いに慣れていた。 若き王子テオとその親友チオも例外ではなく、テンテン王の元で基本的な戦闘訓練を積んでいた。 テオは王子としての地位に縛られることなく、自由に育てられてきた。 彼は父親であるテンテン王の導きの下、王国の民と同じように日常生活を送り、戦いの技術も身につけていた。その日、テオとチオは広場を出発し、森の奥深くにあると噂される隠れた泉を目指していた。 出発してすぐ、森の入り口で最初の魔物に遭遇した。それは硬い甲殻を持つダンゴムシのような魔物で、森の中を這い回っていた。 「チオ、ダンゴーレムだ!準備はいいか?」 テオは剣を手にしながら、隣に立つチオに声をかけた。 「もちろんさ、テオ!こんなの、いつもと変わらないよね。」 チオは自信満々に言い、彼の強力な顎を鳴らしながら魔物に向かっていった。 二人は息の合った動きで魔物に立ち向かい、すぐダンゴムシのような魔物を倒した。 チオはその顎で防御を固めた敵の鎧を砕き、そこにテオの渾身の剣戟を見舞った。 「やっぱり、僕たちっていいコンビだね!」 チオが笑顔で言った。 「うん、でも今日は魔物がいつもより多い気がする。気をつけて進もう。」 テオは周りの気配を探りながら、少し慎重に言った。 「確かに…。でも、僕たちなら大丈夫さ!」 チオはあくまで前向きな態度を崩さず、テオと共に歩を進めた。 森の中に入ると、道は次第に狭くなり、木々が生い茂る中を進むのが難しくなってきた。 すると、再び魔物の気配を感じた。 今度は小さなハエのような魔物が群れを成して襲いかかってきた。 「チオ、上から来るぞ!」 テオは咄嗟に叫び、剣を振り上げて飛んできた魔物を打ち落とした。 「任せて!まとめて片付けてやる!」 チオは素早く反応し、鋭い顎で次々と飛び交う魔物たちを仕留めていった。 二人は息を切らしながらも、またたく間にその魔物たちを倒し終えた。 「こんなにたくさん出てくるなんて、ちょっと変だね。」 チオが息を整えながら言った。 「うん…。普段はこんなに多くはないはずだけど…。」 テオも疑問を感じつつ、前方を見つめた。 だが、彼は気を取り直し、仲間を安心させるように微笑んだ。 「でも、ここまで来たら泉はすぐ近くだ。もう少しだけ頑張ろう。」 テオは前向きに進もうと決意し、二人は再び歩き出した。 進むにつれて、森はさらに深くなり、周りの木々が高くそびえ立つようになった。 光はますます少なくなり、道は次第に不気味な静けさに包まれていった。 とはいえ、テオとチオは訓練の成果もあり、恐れることなく着実に歩みを進めた。 そしてついに、彼らは森の中でほのかに光る場所にたどり着いた。 木々が途切れ、小さな開けた場所が目の前に広がっていた。そこには、澄んだ水をたたえた美しい泉があり、その周りには青く輝く花々が咲き乱れていた。 「ここが…隠れた泉だ。」 テオはその美しさに息を呑んだ。 「見てよ、テオ!あの花だ!すごくきれいだね!持ち帰ってみんなに見せようよ!」 チオは興奮しながら、特に目を引く大きな花に駆け寄った。テオはその花を見つめた。 とても美しいが、何か不吉な予感を感じずにはいられなかった。 「チオ、待って。何か変な感じがするんだ。」 テオは慎重に言ったが、チオはすでにその花を引き抜いていた。 その瞬間、周囲の空気が一変した。 森全体が静まり返り、冷たい風が吹き始めた。花の根元から立ち上る黒い霧が、まるで彼らの恐怖を煽るように広がっていった。 「何か…変だ。」 テオは辺りを見回し、胸の中に不安が広がっていくのを感じた。
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