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チオが無邪気に花を引き抜いたその瞬間、森全体がざわめき始めた。周囲の木々が不自然に揺れ、風が強く吹き荒れる。青空は一気に暗雲に覆われ、まるで世界が一変したかのように、光が失われていった。
「チオ…これは、まずいことをしたかもしれない…」
テオの声は震えていた。
地面に抜けた花の根元から、濃厚な闇のオーラが立ち上り、渦を巻くように空へと伸びていった。その黒い霧はまるで生き物のように蠢き、空気を重く冷たく変えていく。二人はその光景に目を見開き、足が動かなくなってしまった。
「テ、テオ…これ、どうしよう…?」
チオもようやく事の重大さに気づき、青ざめた顔で花を握りしめたまま後ずさった。
「これは…ただの花じゃなかったんだ…」
テオは闇のオーラに吸い込まれそうな感覚に襲われながら、何かが目覚めようとしているのを感じていた。
すると、突然、その場に恐ろしい声が響き渡った。それは地の底から響くような、冷たく邪悪な声だった。
「ついに…この私。イマラスの封印が解かれたか…長い年月を経て、再びこの世界に蘇る時が来た…」
その声はまるで森全体から発せられているかのように、テオとチオの心を締めつけた。二人は戦慄し、何も見えないのにその声の主の恐ろしさを感じ取っていた。
「イ、イマラス…?」
テオは声を震わせながら、その名前を口にした。それは、彼の父、テンテン王から何度も聞かされてきた恐ろしい魔王の名だった。
「その通りだ、愚かなる昆虫どもよ…私を封じた禁忌の花を抜いたお前たちの愚行に感謝しよう。だが、すぐにお前たちも私の力の前にひれ伏すことになるだろう…」
声が二人の頭の中に直接響き、圧倒的な恐怖が襲いかかってきた。闇のオーラはますます強くなり、森の木々は恐怖に震えているように見えた。テオとチオはその場から逃げ出したくても、体が思うように動かなかった。
「テオ…どうする?僕たち…」
チオは半ば泣きそうになりながらテオを見た。
「ここは危険すぎる…すぐに王国に戻って、父上に知らせなきゃ!」
テオは勇気を振り絞って言い、なんとかチオの手を掴んでその場から走り出した。
しかし、闇のオーラは二人を追いかけるかのように、背後から迫ってくる。森のざわめきはますます大きくなり、木々の間からはさらに不気味な影が現れ始めた。
「逃げても無駄だ…私はどこにでも存在する…やがてお前たちを捕らえ、この世界を闇に染め上げるだろう…」
イマラスの声はまるで風に乗って追いかけてくるようだった。テオとチオは全力で走りながら、森の出口を目指した。彼らの心は恐怖でいっぱいだったが、なんとか王国に戻り、この恐ろしい出来事をテンテン王に伝えなければならないと必死に考えていた。
二人は何とか森の中を駆け抜け、ついに闇のオーラから抜け出して、少し光が戻った森の入り口までたどり着いた。しかし、彼らの背後には未だにイマラスの声が響いていた。
「お前たちの勇気、見せてもらおう…だが、それも長くは続かぬ…私は必ずこの世界に蘇り、すべてを支配する…」
イマラスの愚かな昆虫を嘲笑う声が森に響く。
その声は次第に遠ざかっていったが、二人の心には深い恐怖が刻まれた。息を切らしながら、テオとチオは振り返りもせず、王国へと急いだ。
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