第3章 鳥の国

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テオたちは宮殿で試練を受ける準備を整えていた。やがて、冷たい風が突如として彼らの周囲に吹き荒れ、一人の鳥族の戦士が空から静かに舞い降りてきた。彼の羽は漆黒の光を放ち、鋭い瞳でテオたちを見下ろしていた。 彼こそが、天候神に仕える鳥族のリーダー、ベドレロスである。彼の表情は冷静そのもので、まるで感情を一切持たないかのように、冷たい声で話し始めた。 「お前たちが風域を越えたと聞いている。だが、”アナゼリア”様に謁見するには、さらに厳しい試練を乗り越えなければならない。」 ベドレロスの声は静かだが、その言葉には強い威圧感があった。 テオが一歩前に進み出て、落ち着いた口調で答えた。 「僕たちはアナゼリア様に会い、協力をお願いするためにここに来ました。どんな試練でも受ける覚悟です。」 ベドレロスはテオをじっと見つめ、その言葉の重みを確かめるように無言で頷いた。そして手を掲げると、突如として周囲に強風が巻き起こり、目の前には巨大な迷宮が現れた。風そのもので作られた迷宮は、見る者に恐怖すら感じさせるほどの圧倒的な存在感を放っていた。 「この『風の迷宮』を突破し、そして私と戦うことで、お前たちがアナゼリア様の前に出る資格があるかを見極める。ここでは、空を読み、風を操る力が求められる。」 テオは真剣な表情で迷宮を見据えた。 「風を読み、道を切り開く試練か…。準備はできている。行こう、みんな。」 仲間たちは無言で頷き、迷宮に足を踏み入れた。 風の迷宮は、予想以上に厄介な試練だった。迷宮の道は常に変わり、進むたびに風が行く手を遮る。風の流れに逆らおうとすると、強風に吹き飛ばされてしまう。 「風がこんなに強いと、僕たちでも飛べないね…。」 チオが少し怯えながら言ったが、優しい口調で仲間を励ました。 「でも、大丈夫だよ。僕たちならきっと越えられるはず。」 「風を無理に逆らうのではなく、どう流れを利用するかがカギだ。」 テオが冷静に答え、風の動きを観察し始めた。 テンシルがすぐに気づいた。 「風は絶えず変化している。突風が来ると見せかけて、一瞬だけ弱まるタイミングがあるわ。そこで一気に進むしかない。」 テオはその言葉に同意し、仲間たちと協力して風の流れを読み、突風が止む瞬間を見計らって進んだ。時折、風に足元を奪われかけたが、ミエラが槍を使って仲間たちのバランスを保ち、危険を回避した。 「この迷宮、すごく厄介だけど、風にはリズムがあるみたい。みんな、リズムに乗って進もう。」 テンシルが周囲を見渡し、風の動きに注意しながら言った。 「任せてくれ。俺が先に進んで風の動きを確認する!」 ツノドンが勇敢に前に出て、風の勢いを感じ取りながら進んでいく。 テオたちは迷宮の中で、風に翻弄されながらも、少しずつ進む方法を見つけていった。風を無視して力任せに進むのではなく、風の流れに乗って、タイミングを見計らいながら前へと進んでいく。彼らは力を合わせ、迷宮の複雑な道を攻略していった。 「もう少しで出口が見えてくる…頑張ろう!」 テオが静かに仲間たちを鼓舞し、ついに迷宮の最奥にたどり着いた。 迷宮の最奥にたどり着くと、そこには再びベドレロスが立っていた。彼は冷たい風をまとい、静かにテオたちを見つめていた。 「風の迷宮を突破したことは見事だ。しかし、最後の試練はここからだ。風を味方につけ、私を打ち破れ。」 ベドレロスは一言も無駄にせず、すぐに空中に舞い上がった。強力な風を操り、彼の周囲に嵐が巻き起こった。風を操る力に長けた彼は、まるで空そのものを支配しているかのように自在に飛び回り、次々と突風をテオたちに浴びせかけた。 「こんな風の力…まるで嵐そのものだ…!」 人犬が恐怖混じりの声で呟いた。 「ここまでの風を操るとは…さすが、天候神に仕える者ね。」 テンシルが冷静に分析するが、その視線には敬意と少しの不安が混じっていた。 「でも、僕たちはここまで来たんだ。負けるわけにはいかない。」 テオが静かに言い、仲間たちを鼓舞した。 ベドレロスは一瞬の隙もなく風を使いこなし、次々と竜巻や強風を巻き起こして攻撃してきた。テオたちはその動きに翻弄されながらも、風の流れを読み、反撃のチャンスをうかがった。 「風を逆らうんじゃなくて、風に乗るんだ!」 テンシルが風の動きを見極め、ベドレロスの攻撃を避けるために仲間たちに指示を出した。 ミエラが槍を構え、突風を利用して一気に接近しようとしたが、ベドレロスはそれを見抜き、さらに強力な風で彼女を押し戻した。 「速い…だけど、負けない…!」 ミエラは歯を食いしばりながら、何度も突撃を試みる。 テオも光の加護を発動させ、周囲の風の動きを感じ取りながらベドレロスに接近しようとするが、彼の速さは驚異的だった。 「すごい…風を完全に支配している…!」 テオはその強さに驚きを隠せなかったが、負けるわけにはいかないと決意を新たにした。 そして、一瞬の隙を見つけたテオは、光の加護を最大限に発揮し、風の流れを切り裂くようにベドレロスに一撃を加えた。光と風がぶつかり合い、空中で閃光が走る。 ベドレロスは静かにその場に降り立ち、冷静な表情を保ちながらも、テオたちの実力を認めたようだった。 「見事だ。お前たちは風を読み、力を合わせて私を打ち破った。これでお前たちは、アナゼリア様に謁見する資格を得た。」 ベドレロスは、静かに目を閉じ、冷徹な表情を崩さないまま続けた。 「私にここまで挑んでくる者は少ない。お前たちは風を理解し、共に戦う術を身に着けている。それが、この国で必要とされる力だ。」 テオは一瞬だけ深い息を吐き、静かに頷いた。 「ありがとうございます、ベドレロスさん。あなたに認めてもらえて光栄です。僕たちは、アナゼリア様にお願いしなければならない。だから、ここまで来ました。」 ベドレロスは一瞬、テオの瞳を見つめ、無言のまま頷いた。 「ああ。知っている。実はこの試練は入国審査などではない。アナゼリア様からの命によりお前たちに試練を課したのだ。」 「何ぃ?じゃあ何なんだよこの試練は!」 人犬は通常は受けなくても良い試練を受けさせられたことに対して腹を立てた。 彼は冷たい風をまといながら、振り返って天を見上げた。 「アナゼリア様は、この世界の天候を支配し、風と空を守護する存在だ。だが、そんな我々の風と空にも脅威が迫っている。そこでお前たちをお前たちの力を試したのだ。」 「脅威…?もしかして…」 テオが口にしようとすると、それを遮るようにベドレロスは話しだした。 「話は直接アナゼリア様より聞くと良い。後ろの階段を登ってすぐだ。」 こうして、テオたちはベドレロスとの激闘を終え、風の試練を見事に乗り越えた。彼らの次なる目標は、天候神アナゼリアとの謁見。彼女の前で、テオたちはついにイマラスとの戦いに必要な協力を得るために、真摯な願いを届けようとしていた。
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