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監禁とは、或る場所に閉じ込める事で行動の自由を奪う行為である。
そういった観点から彼の現状を語るのであれば、それは正しく監禁であると言う事が出来た。
彼――相川一広(アイカワ カズヒロ)という、小さな会社に籍を置く若い在宅のSE(システムエンジニアー)は或る日気が付いたら其処に居た。
布団もないフローリングの床に寝ていた彼が背中の痛みで起きて見回した空間は、白い壁と玄関と、採光量の大きな窓、そして独身用の小さな冷蔵庫と折り畳みテーブルしかないワンルーム。それは一見して、彼の普段寝泊りする部屋と、何ら違いは見られなかった。水も食料も生きていくには僅かに足りない程度には揃っている。
だが。
決定的に異なっていたのは、そこから全く出ることが出来ない、という事である。大きな窓は固く閉じられ、鉄臭い丈夫な格子が嵌められていた。戸は隙間まで何かパテ状のもので埋められ外すら見えない。まさかと思い見てみれば其の部屋の、穴という穴が同様にして埋められていた。
そう。
言ってみれば彼がいたのは陸の孤島。唯一彼が所持していたスマートフォンも虚しく圏外を告げていた。彼はそこまで一頻り確かめた後、冷蔵庫からラベルの無い怪しげなミネラルウォーターと思しき液体を取り出して、匂いを確かめた後恐る恐る口を付ける。成る程水の味がした。喉を滑る冷たい清水が彼を落ち着かせる。
そうでなくとも、冷静な人間だった。茫洋と天井を見上げる。そこから出られない以外は、概ね普通の部屋なのだ。これは監禁、という事になるのであろう。ただ、其の意図は見えない。本質的に監禁とはそれに利益の要求が付随しているものである。だが彼は蓄財する様な質では無かったし、其の事も公にしていた。況してや、犯人の顔すら拝めないし、其の気配すら掴めない。
だがそれは考えても、詮無い事なのだろう。或いはもしかしたらこれは、徹夜の続きがちな自分の見た、或る種の夢なのかもしれない。
彼がそう自覚するとと共に、目の奥をグリグリと押し込む様な強い眠気が其処に襲い来た。新年度早々に、新規プロジェクトとやらで彼は既に三日程寝ていなかったのだ。寝ても寝足りないというのも頷ける話である。
――起きたら、またバグ取りでもしないとな。
そんな事を訓戒の様に考えながら彼は固い床に再び寝そべり、そしてすぐに其の両目を閉じてしまった。
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