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別れた女からの最後のメール。
その女から、
彼女の部屋に置き忘れた俺の忘れ物だという荷物が、翌日届いた。
『九州ミカンSサイズ』と、記された段ボール箱。
色鮮やかな黄色い蜜柑の柄が、プリントされている。
赤い小花を散らした布地テープが貼られ、きっちりと閉じられていた。
用紙に判を押し、箱を両手で抱える。
箱の大きさとは裏腹に、ずしりと重たい。
俺が買った雑誌や、DVDといったものが入っているのだろう。
「全部捨てていいって言ったのに...」
漏れるため息。早朝だというのに、疲労感を感じる。
かなえは、最後まで、面倒くさい女だった。
東京への転勤が決まる前から付き合っていた地元の彼女のかなえは、
訛りが酷く、服も化粧も、どこか垢抜けなかった。
髪を一つに束ねるシュシュは、
いつもタオル生地で出来たピンクの水玉。
それが東京の流行りだと何年も前に見た雑誌のスナップと
同じ格好をし続ける彼女にウンザリしていた。
転勤後も、田舎に帰るたびに、抱いてやったが、
愛の言葉を囁かれるたびに、興味が薄れていった。
「としやんのことぉ、かなえ、ずーっと、愛してりゅよ」
「かなえはぁ、ずーっと、としやんの傍にいたいんよ」
舌っ足らずな喋り方が、可愛いと思った時もあった。
何処か幼さを残す仕草や、恥じらう姿が愛らしいと思うのは、
10代の時だけだ。
20代の折り返し地点に入った女が、未だに純朴な少女のような
喋り方をするのは、正直、気味が悪い。
俺が、上京して変わったのが悪いんじゃない。
あの女が、変わらなかったのが問題なのだ。
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