ワスレモノ

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テープを剥がすと、 途端に魚の腐ったような生臭さが、鼻をついた。 においの不快さに、胃液がこみ上げ、口元を手で押さえた。 生ものでも入れたのか? 気の利かないあの女なら、生魚を冷蔵用の箱に入れずに、ダンボールに詰めて送りかねない。 温かくなったアイスが、家のノブにぶら下がっていた夏の日を思い出した。 あの紙袋の中にあった泥海の惨劇は、未だに友人連中のなかでの鉄板な笑い話である。 皮肉たっぷりに口元をゆがませ、箱の蓋を開く。 蓋の端に引っかかったのか、中から何かが飛びだし、床にぽたりと落ちた。 何処か湿っていて、 蠢く芋虫のようにくたりと寝そべり木の板に張りついている。 それはピンク色のシュシュ。 ―――― こんなもの、忘れ物でもなんでもない。 床に落ちた布切れを拾い上げ、 段ボールの蓋を大きく開けた途端に、ねっとりとした瞳に捉えられた。 透明のビニール越しに、俺を見つめる眼球。 ブリーチで痛み過ぎた金色の髪。 粘土を丸めておしつけたような丸くて大きな鼻。 腫れぼったい唇の奥から突き出した、ピンク色の舌。 顎の下で、刈りとられた頭部。 ――― 箱の中には、捨てた女がいた。 胸ポケットのスマートフォンが、振動する。 鼓動が耳の奥を、反響させる。
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