第1章 ケガレ

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男と遊んできた夜は、 自分が独特の匂いを発しているようで、 私はそれが気持ち悪くて、 帰宅するなりシャワーを浴びる。 ホテルでもきれいに洗ってきたのに。 この不快な残り香は何なんだろう。 惚れてもいない男と寝るふしだらな女への罰だとでもいうのだろうか。 乾いてひび割れた胸を潤すかのように、ミネラルウォーターをコクコクと飲み干す。 するとさっきまでの出来事が途端に遠くなる。 使い馴れた化粧水の匂いにようやく我に帰る気がする。 男というものはどうしてこうも女の肉体にも精神にも無頓着なのだろう。 勘違いも甚だしい。 男と寝て満足したことなど一度もない。 男主導での行為とはそういうものなのだ。 苦痛に耐えて、一刻も早く行為が終わるように演技をする。 すると男は本当に自分が女を喜ばせていると思い込んで、ますます激しい行為に及ぶ。 …ああ、いつ頃から私はこんなにも汚れたのだろう。 男を好きになる気持ちが湧いてこない。 だからといって人肌は恋しい。 そして行きずりの男と殺伐とした時間を過ごす。 もちろん気分よく過ごせるよう、私もできるだけの気配りはしているつもりだ。 しかし行為の後は心が干からびる。 嫌悪感に襲われる。 この悪循環。 メビウスの輪のように終わりがない。 いつか私にも訪れるだろうか。 心ときめく出会いというものが。 はは…。夢を見るには歳を重ね過ぎた。 それでも穢れた精神と肉体の中心には、 決して何物にも侵されないダイヤモンドのような、 美しくピュアな粒が潜んでいる。それもまた真実。 たとえ誰が信じなくても。穢れとは、純粋と表裏一体なのだ。 汚れれば汚れるほど、その粒は輝きを増す。 自己満足でもいい。私はそういう女だ。 破壊したい願望。
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