10人が本棚に入れています
本棚に追加
男の顔はつるつると、あるべきはずの目鼻がない。猫は尻尾の先の毛まで逆立てて、腕から逃れようと暴れだした。男は何を興奮したのか、猫に引っ掛かれようと決して離さなかった。
「旦那ぁ!! この猫、人語を話まっせ!! きっと我らと同じですぜ」
「化けもん、離しやがれっ」
「何言ってるんすか?猫さんも我らの仲間の化けもんでしょ?」
「違うわっ、オレはたまたまじゃい!」
猫と目鼻のない男のやり取りを、縁側の男はあきれたように眺めみた。
南の方から鈴の音が微かに聞こえる。縁側の男は二人の言い争いの騒がしさの中でその音を耳に止めると、眉間にしわを寄せた。
懐から草履を取りだし、土におく。
「旦那ぁ、どうしましたぁ?」
「離せ!!くそ!!化けもん!!」
「静かに」
縁側にいた男は猫の側に歩み寄ると、指先を猫の鼻に軽く触れさせて言った。猫は動きを止める。
「・・・・・・二人とも普通の"人"の会話をしときなさい。僕は訪問客の相手をしますから」
猫を安心させるためか、柔らかな微笑みを向けた。すぐに厳しい顔に戻ると南へと向かう。猫は口をポカンと開けたまま、縁側にいた男の姿を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!