10人が本棚に入れています
本棚に追加
猫は小さく頷く。
「のっぺらぼうか。じゃ、のっぺらでいいな。オレはクヴェルと呼べ」
「ああ、で・・・・・・って名前は権三でやんすよ!?のっぺらって」
「のっぺら、てめぇは何者だ?なぜ目鼻がないのだ?」
猫は話をさえぎって言葉を紡ぎ、のっぺらぼうを睨み付ける。眼力に押されたように、のっぺらぼうは身を僅かに引いた。
同時にのっぺらぼうは猫の瞳の美しさに息を飲み込んだ。改めてみた猫の瞳は南国の海の如き、鮮やかな青。
猫はのっぺらぼうが口を開かないのにしびれを切らす。舌打ちをし、問いかけた。
「化けもんか?」
「化け物と言うよりは妖の方が、僕はしっくり来ますよ」
突然乱入した静かな声に一人と一匹は振り向いた。口の端を少し下げた男が二人の側によって来た。
「僕は言ったはずです。普通の会話をしろと。まぁ、なんとか追い返しましたが」
不機嫌な色が声ににじみ出るのを聞いて、のっぺらぼうは首をすくめた。猫はその口調を気にもしないかのように、平然と口を開く。
「そりゃ、申し訳なかったな。で、妖とは?」
「・・・・・・猫さん、あなたも妖ではないのですか?」
静かに問いかける声に猫は答えた。
「知らぬわ。飛ばされた先がここだっただけ。猫になってるわ、目鼻ないやつがいるわ、訳がわからん」
最初のコメントを投稿しよう!