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ヘリは上空を旋回し、一機は海上に、一機はゆっくりと旋回しながら島に近づいてくる。
さらに状況は動いた。
紫条家東側の森の中から銃声が響く。
あれは片山の狙撃だ。まだ<死神>たちは上陸していない…… ということは……
「拓さんっ! 狂人鬼が!!」
拓は黙って頷くと波止場先端から波止場東側に移動した。防御陣に入らず電信柱の影に入り込む。
やがて待つまでもなくフラフラと歩く5人ほどの人間が見えた。皆肌が異常に白く頭髪はボサボサで一部は抜け落ち、体中ボロボロで尋常な様子ではない。これまでは夜遭遇しただけだったが、昼間、こうして見ると正に映画のゾンビのようだ。彼らは拓を見つけると奇声を上げ拓に向かって動き出した。太陽光が刺激になるのだろう、物陰を不器用に移動しながら迫ってくる。明け方サタンとの戦闘で姿を現さなかったのはサクラがウロチョロしただけでなく波止場が完全に朝陽で影がなかったからだろう。
ついに一団は波止場の入り口付近にまでやってきた。
一人が片山に足を撃たれる。もう一人は腕を撃たれた。だがその程度のダメージでは痛覚が麻痺した狂人鬼は止まらない。逆にアドレナリンを上げ、より凶暴さが増す。彼らはもはや野獣かと思うような奇声を上げると拓と涼に向かって駆け出した。走り出した狂人鬼を片山の狙撃では止められない。
「ちぃっ!!」
拓はあくまで旋回するヘリをオートライフル右手一本で狙い撃ちしながら器用に左手で左懐中にある45オートを抜くと狂人鬼たちを一瞥、45オート8発を放つ。2人の頭部が吹っ飛び、残り3人も胸部や腹部に弾を受け足が止まった。再び拓は一瞥、状況を確認すると素早くオートライフルを狂人鬼たちに向け連射、完全に息の根を止めた。
「涼ちゃん、弾!」
オートライフルとHK G36Cは涼が持っている。拓はM14を小脇に抱え45オートの弾を交換し、丁度それが終えたとき涼がM14の20連マガジンを投げて渡した。それを受け取り装填しつつ上空のヘリを見上げる。一機のヘリは海上でボートにロープを下ろしていた。恐らく牽引して運ぶのだろう。この波止場ではない、恐らく煉獄側に。全て計算内だ。もう一機のヘリは紫条家屋敷のほうに飛んでいくようだ。
「結局サクラだけが頼りか」
拓は海上の様子を見ながら呟いた。悪意はない、これも予想していたことだ。
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