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「舞ちゃん!!」
声とともに、革靴が走り寄る音が聞こえ、振り向くと、
「中村くん……」
まだメールを始めたばかりの片思いの相手が、息を切らして来てくれた。
「お前、この間の、" 雑巾 " のダチか!」
剛は、野球のバッドを片手にやってきた中村くんを見て、思い切り笑った。
私の腕は解放され、すぐさま、トイレの中のサクラに駆け寄る。
「お前、サクラのブサイクな妹とできてんの?!物好きだなっ!
で、なに?そのバッドで俺、やるつもり?ウケんだけど.?」
剛は相変わらずのムカつく態度で、私たちを侮辱する。
中村くんは、白い肌をさらに青白くしながら、
まだ完全じゃない身体で剛の方に近づいていく。
「お前なんか、早く警察に引っ張られていけばいい。
人の痛みがわかるまで 一生、ムショにいろよ。」
____……きっと
こわいよね?
中村くん、震えてるよね。
だけど
「この間から、邪魔ばっかしやがって、このモヤシ野郎が!
さぁ、来いよ!」
自分より一回り以上もガタイのいい剛に
向かっていく中村くんは、
とても勇ましく見えた。
私は、サクラを見つめながら
携帯から
110番しよう として、
「やめて」
サクラに止められる。
「えっ?」
カー―ン!!!!!
と
中村くんが振り回したバッドが
剛じゃなく、
トイレの壁に当たった音が、更に私の携帯を開く手を止めさせ、
「今度は死ねよ」
剛が、中村くんの首を絞めているのが見えて
「ちょっ!?止めなさいよ!!ホントに死んじゃう!!」
わたしは、携帯を放り投げ、
代わりに、床に転がったバッドを拾い上げた。
「光くん!!」
初めて
片思いの人の下の名前を呼んだ瞬間だった。
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