複数愛

33/39

118人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
……剛はまだ捕まらない…… 携帯電話を持っていない私は、 公衆電話から サクラと、自宅にかけて、 何か変わりないか確認していた。 「F県で仲間の車が見つかったらしい」 「Y県の県道のスピード違反の取り締まりを逃げ切ったらしい」 ここから確実に離れて行ってる情報が、 やや私達に安心感を植え付けた。 「杵渕先輩」 六時間目開始前、 廊下で、 コーチお気に入りの新入部員から呼び止められた。 「なに?」 「部活出ないんですか?」 出たくても出れないんだって…… 「コーチの許可が下りないから…」 「試されているんですよ?」 「えっ」 これから夕日が落ちるまで、まだまだ暑くなりそうなグラウンドから 「先輩の根性を」 突風のせいか、 小さな竜巻が起こり、生徒達の悲鳴が聞こえている。 「わたし、嫌われてるから…」 後輩にこんなこと言う先輩……情けない。 「去年の高総体の杵渕先輩を見て、 わたし、受験するところ、この高校に決めたんですよ」 「………え?」 一年生は、 怒っているかのような口調のまま続ける。 「吹かれてるだけじゃダメですよ」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加