複数愛

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剛が捕まらないまま、 だけど私達の周辺は穏やかで特にトラブルがないまま数日が経つ。 私は、月末の大会を控えながらも、 やはりタイムが伸びなくて ちょっぴり凹みそうになった。 「晃志おじさんの走っている動画記録があるけど観る?」 朝、通学で電車であった光くんが心配して声をかけてくれた。 「そんなのがあるの?」 手すりに捕まり、 相変わらずの光くんの端正な横顔にドキドキ。 「おじさんは、全国大会で優勝する位だったからそんな映像がいくつもあるよ。 距離は違っても参考になったらいいんだけど…」 ____ " 中村晃志 " 小さい時から父親の暴力、 父親の謎の死 記者による脅迫事件、 不慮の事故____ けして、恵まれているとは言えなかった人生の中で 彼が残した高校三年でのタイムは、 現在もその記録を打ち破られてはいない……… 陸上をする人間の間ではやや伝説めいた人物。 わたしは、最近それを知った。 「観たいな、貸して」 「なんなら、日曜日でも家に来てもいいよ。」 「………どうしようかな」 サクラに悪い気もする。 「一人が億劫なら、サクラちゃんも連れてきたらいいよ。」 「…………」 ガタガタン! ……揺れる電車 私の心もまた揺れた。
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