118人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
剛が捕まらないまま、
だけど私達の周辺は穏やかで特にトラブルがないまま数日が経つ。
私は、月末の大会を控えながらも、
やはりタイムが伸びなくて
ちょっぴり凹みそうになった。
「晃志おじさんの走っている動画記録があるけど観る?」
朝、通学で電車であった光くんが心配して声をかけてくれた。
「そんなのがあるの?」
手すりに捕まり、
相変わらずの光くんの端正な横顔にドキドキ。
「おじさんは、全国大会で優勝する位だったからそんな映像がいくつもあるよ。
距離は違っても参考になったらいいんだけど…」
____ " 中村晃志 "
小さい時から父親の暴力、
父親の謎の死
記者による脅迫事件、
不慮の事故____
けして、恵まれているとは言えなかった人生の中で
彼が残した高校三年でのタイムは、
現在もその記録を打ち破られてはいない………
陸上をする人間の間ではやや伝説めいた人物。
わたしは、最近それを知った。
「観たいな、貸して」
「なんなら、日曜日でも家に来てもいいよ。」
「………どうしようかな」
サクラに悪い気もする。
「一人が億劫なら、サクラちゃんも連れてきたらいいよ。」
「…………」
ガタガタン!
……揺れる電車
私の心もまた揺れた。
最初のコメントを投稿しよう!