複数愛

37/39

118人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「母さん、日曜日に舞ちゃんとサクラちゃんが遊びに来るよ。」 父さんの個展が終わり、 絵の回収や購入者とのアフターなど ちょっと忙しそうな母さんは、 それでも嬉しそうに返事をした。 「2人仲良いんだね、安心した。」 「…………うん」 俺は、 自分の気持ちがよく分からなくなってきていた。 「どの絵が売れたの?」 父さんが残してくれた、遺族のための売却用の絵画たち。 「季節を表した田舎の風景画ばかりよ。」 そんな絵も俺は全部大好きだ。 できたら 手元に置いておきたい。 「俺、医者になるの諦めて、高卒で働こうかな…」 生活には困ってないけど時々、現実的に考えてしまう。 舞ちゃんは、 頑張って心臓病の医者になれと言ってくれたのに。 「お母さん、また働きだすから、光はあまり考えすぎないで」 母さんは、庭にでて、初夏の花たちの手入れをし始めた。 「………絵は描かないの?」 父さんが亡くなってから 泣いていない時の母は、いつも絵を無心に描いていた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加