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母の描く絵は、
木や花などの植物が多く、
綺麗なだけじゃなく
淡さと暖かさが、観ている者を和ませるような絵ばかりだ。
「そのうち描くわ」
そんな母さんの絵で、唯一
抽象的で力強く、光と闇を持った作品が一つだけある。
晃志おじさんが亡くなった後に描いた、
赤い蝶の絵………。
「おじさんの陸上のDVD、あれを舞ちゃん達に見せようと思って。」
庭に水をまく、母さんの動きが止まる。
「晃志の…?」
実は、
手元にあっても
俺は勿論、母さんもそれを見たことはない。
だけど
父さんやおばあちゃんは観たことがあるはずのおじさんの栄光のVTR。
「お母さんは、見ないから…」
「…………うん」
母さんは、動画は辛くて見れないのだという。
「日曜日、ケーキ焼こうかな」
母さんは、手を洗いながら
またキッチンの桜の絵を見つめる。
「来年、またあの公園に描きに行こう。」
俺たち親子は、桜の花が大好きだ。
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