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消えゆく視界の中で、
春には美しい花を咲かせていたであろう、桜の木が見えていた。
土の匂いはさほど苦痛じゃないけど、
だんだんその重さが自分の心臓を圧迫しているのを感じていた。
『お父さんはいつも晃志と生きていたんだ』
心臓病のことを、小学生の時に明かしてくれた父さん。
雨の入学式の時、
散りゆく桜の中を手を引いて歩いてくれた父さん………
『どんな時も母さんより沢山泣いちゃだめだぞ』
草むしりをしながら、俺の頭を撫でて、
母さんと俺への愛情を示してくれた父さん………
父さん、
俺、
今まで、ずっと、お父さんが言ったこと
守ってきたんだよ。
晃志おじさんが父さんを守ったように、
父さんが
お母さんを
俺を、
命ある限り守り続けてきたように、
母さんを悲しませないように頑張ってきたんだよ。
…__でも、
遠のく意識の中で、
俺の心臓は生きたい身体と心に反して、
限界だと悲鳴を上げていた。
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