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異変は、引っ越してすぐに始まった。それこそ最初の夜からだそうだ。
ぱきぱきと音がするところから始まり、病気はする。怪我はする。財布は落とす。事故に遭う。ありとあらゆる不幸がオッサンを襲った。
「これは絶対におかしいって思いましたけどね。でも、俺は絶対に引っ越しなんてしないって決めてました。だってね、そんなの幽霊に負けたみたいで悔しいでしょ? なんで俺が引っ越さなくちゃならないの? 金払って住んでんのに」
凄い意地だ。というか、馬鹿と紙一重だ。僕ならすぐに引っ越している。
そんな日々が半年ほど続いた頃、少しだけ変化が起こり始めたようだ。
「そのうちに金縛りっていうんですかね? そういうのが毎晩続いて。俺、『やめろ。そんなことしたって俺は出て行かないぞ』っていっつも言ってやったんです」
朝起きるとモノが移動しているなんて事が毎日あったようだ。
「車のキーをね。俺、部屋に帰ると玄関の壁にあるフックにかけておくんです。習慣なんですけど。でも、朝になると無くなってて。探すとコタツの上だったりテレビの上だったりで見つかって。酷い時には電子ジャーの中だったり。鍵探しが日課になったもんだから、会社に遅刻しないよう、早めに起きなくちゃならなくなりましたよ。わはははは」
笑いごとではない。物質にまで働きかけられるような力を持つ幽霊ってことだからだ。かなり強力な”悪霊”だったのだろう。その気になれば、このオッサンを殺すことだって出来たんじゃないだろうか? そう考えると身震いする。
そんな生活を、このオッサンはなんと10年も続けることになる。僕はその事実に驚愕した。
幽霊との共同生活を10年間も送るのだ。これはもはや”見えない家族”と言えるだろう。
それも、”悪意に満ちた”家族なのだ。
だが、そんな生活もある日突然終わりを告げる。
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