28人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、その部屋は最初から出るって言われていたんでしょう?」
「ああ、だから多分、それとは違う幽霊だって。もともといた幽霊は、エロ幽霊に追い出されたんじゃないかって」
霊界も弱肉強食なのだろうか? 居場所は自分の力で確保するものであるらしい。
「ふられたショックからか、その幽霊、もう成仏してますよ」
霊媒師はそう断言して笑ったそうだ。
「まぁ、成仏できたのなら良かったですよね」
オッサンが、がははと笑う。
「でも、10年も一緒に住んでいたんでしょ? いなくなったら寂しくなったりとか、情が移ったりとかしてなかったんですか?」
僕の脳はラノベ脳だ。ついこんな想像までしてしまい、確認してみたくなる。
「はー? あー、まぁ、ちょっとはあったかも知れませんねぇ。別にもう一度会いたいとは思いませんけど」
「ですよねー」
現実にはこんなもんだ。これが当然の反応だろう。
このオッサンは僕の会社にシルバー人材派遣会社から派遣されている。僕は正社員であり、この60代後半のオッサンは派遣社員。だからお互い敬語でやりとりをしているけど。
やはり、この年代のオッサンたちの話は面白い。人生に深みがある。とんでもない修羅場をも潜り抜けてきているのだから。
「あ。この話は内緒ですよ、峯さん。他の人に聞かれたら、俺、頭オカシイって噂になるでしょうからね」
「はは。分かってます」
口に人差し指を当て、ウィンクしてみせる皺深いオッサンが、僕にはやけに眩しく見えていた。
~END~
最初のコメントを投稿しよう!