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「私を、貴方の恋人にする気はない?」
涼やかに、彼女はとんでもないことを言う。
だが俺はもう、何を言われてもそんなに驚かない。
「恋人? 何でまた」
「昨日の貴方と赤穂君の会話を聞いていたんだけど、貴方怪しまれてるじゃない」
「何が」
「貴方が恋人を作らないことをよ」
……なんだか盗聴された気分だ。
確かにツカの席は綾ヶ崎の二つ前だ。今までこんな女、気にもかけていなかった。
彼女の言うように、俺はツカに怪しまれている。
昨日の休み時間の会話はこんな感じだ。
「そういやさ、イッキって彼女作らないよな」
ツカは最初そう言った。俺は彼にだけ、“イッキ”と呼ばれている。それは六歳から変わらない。そう、俺達は変わらない。
「別に、あんまり興味ないし」
「結構モテるじゃん、イッキ」
「ブスばっかよ?」
「酷いなそれ。まじで童貞卒業した方がいいって!この夏にでもさ」
馬鹿じゃねーの。
そんな可愛い顔で何言ってんだ。
「別にいいって。それなりにいい女見つけてヤるから」
「うっわ。最悪、ヤリチンか」
整った綺麗な顔が、くしゃりと崩れる。笑った。くそ、可愛過ぎる。
「もしかしてお前、ホモ?」
冗談混じりに、あいつは訊いた。
「……アホか。んな訳ねーだろ」
「だよなあ」
「男より女の方がいいだろ、好きになるなら」
本当に心からそう思う。
「確かにねぇ。まあそういうジャンルの人間もいるんだろうけど、俺には分かんないわー……んじゃあさ、イッキがもしホモだったら、上か下どっちしたい?」
何言ってんだ馬鹿。
「知らねーよ。考えたくもない」
「俺がホモだったら絶対上だね。女役とか考えられない」
……と、ツカは言っていた。
すまん、ツカ。俺は毎晩夢の中で、お前をガスガス犯してる。
と、静かに、胸中で謝ったのを覚えている。
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