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ずらりと本棚が並んだ館内は、いやに静かだった。普段は保育園やらに通っていそうなちびっこ達が、人の迷惑も考えない母親と大声を出してはしゃいでいるのだが。
……くそ、こういう時に限って、蝉の声が際立つ。
ミーンミーン
ミーンミーン
俺はこいつの耳障りな声が、昔から大嫌いだった。こいつはミンミン鳴いてるだけで、ツカの目を奪ってしまう。
でも俺が何より嫌いなものは――
雀蜂だ。
奴は、生きているだけで、ツカを喜ばす。
泣いているあいつを、笑顔に変えてしまう。
“女王蜂の為にひたすら働く、働き蜂”
奴らは酷く攻撃的で、毒針を武器にして敵を攻撃する。だが、ツカが近付いてもその針で刺すことはなかった。
小学校低学年の頃、俺達はよく雀蜂の巣を見つけてははしゃいでいた。だが俺はちっとも、嬉しくなんかなかった。
幹下や植木、生け垣の中、床下、外壁の隙間、原っぱや資材置き場、物置や樹木の空洞など、あいつらは何処にでも巣を作る。夏になれば、見掛けない日はないくらいだ。
「何で、雀蜂が好きなの?」
かつてそう尋ねると、ツカは笑って言った。
「だって、女王様の為に働いて死ぬなんて、いい奴じゃん」
働いて死ぬ?
雀蜂は死ぬのか?冬眠するんじゃないのか?
……雀蜂は、俺にとっていつだって、ライバルだった。
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