🌱🌱🌱第一章🌱🌱🌱

15/28
前へ
/31ページ
次へ
「設楽君。どうしたの?ぼーっとして」 隣に座って読書をしていた綾ヶ崎が、俺の顔を覗き込んだ。 「……別に。何でもねーよ」 「ふーん」 「なぁ、ここって答え何?」 向かい側に座るツカが、宿題のプリントを突き出して俺に訊いて来る。 「お前なぁ……自分で考えろよ」 「分かんないんだって。教えてよお願い」 「留年するぞお前。答えは教えない。解き方なら教えてもいい」 「それじゃ意味ないし」 「いやあるだろ」 「むー……」 拗ねたように唇を尖らせて、ツカは諦めたようだ。どうにかして自分で解こうと頑張っている。可愛い。 茶色の混ざったサラサラの髪は、目の下まで伸びていた。だが分けられているせいか、重さは全く感じられない。 ……クーラーが効いている筈なのに、なんだか暑いな。 「綾ヶ崎。お前、宿題持って来てないのか?」 「ええ。図書館は宿題をする場所ではないから」 それは遠回しな嫌味か。 図書館を出た時間は、6時過ぎだった。 外はまだギラギラと太陽が照っていて、俺を苛立たせる。 「次、どうするの? 図書館デートなんて、貴方センスが悪いと思うわ」 綾ヶ崎が、平然と述べる。悪かったな、センスが悪くて。 「おっ、俺帰るわ」 唐突に、ツカが言った。 アスファルトが、ジリジリと焼かれている。陽炎が、ゆらゆらと揺らめいていた。 住宅が並ぶこの町には、俺の嫌いなものしかない。 「……は? お前が帰る必要ねーだろ」 「いや、だって、俺邪魔じゃん」「別に邪魔じゃないし」 「俺がなんか気まずいんだって」「はぁ?」 何言ってんだよ。帰るとか言うなよ帰るなよ。邪魔なのは綾ヶ崎の方で、お前じゃない。 俺が必要なのは、綾ヶ崎じゃなくてお前だ。 言える訳がなかった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加