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「設楽君。どうしたの?ぼーっとして」
隣に座って読書をしていた綾ヶ崎が、俺の顔を覗き込んだ。
「……別に。何でもねーよ」
「ふーん」
「なぁ、ここって答え何?」
向かい側に座るツカが、宿題のプリントを突き出して俺に訊いて来る。
「お前なぁ……自分で考えろよ」
「分かんないんだって。教えてよお願い」
「留年するぞお前。答えは教えない。解き方なら教えてもいい」
「それじゃ意味ないし」
「いやあるだろ」
「むー……」
拗ねたように唇を尖らせて、ツカは諦めたようだ。どうにかして自分で解こうと頑張っている。可愛い。
茶色の混ざったサラサラの髪は、目の下まで伸びていた。だが分けられているせいか、重さは全く感じられない。
……クーラーが効いている筈なのに、なんだか暑いな。
「綾ヶ崎。お前、宿題持って来てないのか?」
「ええ。図書館は宿題をする場所ではないから」
それは遠回しな嫌味か。
図書館を出た時間は、6時過ぎだった。
外はまだギラギラと太陽が照っていて、俺を苛立たせる。
「次、どうするの? 図書館デートなんて、貴方センスが悪いと思うわ」
綾ヶ崎が、平然と述べる。悪かったな、センスが悪くて。
「おっ、俺帰るわ」
唐突に、ツカが言った。
アスファルトが、ジリジリと焼かれている。陽炎が、ゆらゆらと揺らめいていた。
住宅が並ぶこの町には、俺の嫌いなものしかない。
「……は? お前が帰る必要ねーだろ」
「いや、だって、俺邪魔じゃん」「別に邪魔じゃないし」
「俺がなんか気まずいんだって」「はぁ?」
何言ってんだよ。帰るとか言うなよ帰るなよ。邪魔なのは綾ヶ崎の方で、お前じゃない。
俺が必要なのは、綾ヶ崎じゃなくてお前だ。
言える訳がなかった。
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