第一章

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私は、椅子の背にもたれながら、再び窓の外に目を向けた。 カップルは携帯電話を覗き込みながら、飽きもせずに笑いあっている。 その指から垂れる赤い糸は、互いをしっかりと結び付けていた。 風に煽られて、すっかり色あせた桜の花びらが、二人に降り注ぐ。 女性の髪は乱れ、男性のシャツをはためかせる。 それでも糸は、そんなことには関係なしに、かすかに揺れることさえせずに、そこにあった。 二人を横目で見ながら早歩きに背広姿の男性が通り過ぎていく。 その指からも、赤い糸が垂れて、どこへともなく伸びていた。 今にも切れてしまうんじゃないかと思うほど細い糸の行方を、無意識にたどろうとして、私は顔を上げる。 「やだ、もう!」 扉越しに、女性の声が聞こえてくる。 春の風が、彼女の髪をくしゃくしゃにかき乱し、慌てさせていた。
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