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私は、椅子の背にもたれながら、再び窓の外に目を向けた。
カップルは携帯電話を覗き込みながら、飽きもせずに笑いあっている。
その指から垂れる赤い糸は、互いをしっかりと結び付けていた。
風に煽られて、すっかり色あせた桜の花びらが、二人に降り注ぐ。
女性の髪は乱れ、男性のシャツをはためかせる。
それでも糸は、そんなことには関係なしに、かすかに揺れることさえせずに、そこにあった。
二人を横目で見ながら早歩きに背広姿の男性が通り過ぎていく。
その指からも、赤い糸が垂れて、どこへともなく伸びていた。
今にも切れてしまうんじゃないかと思うほど細い糸の行方を、無意識にたどろうとして、私は顔を上げる。
「やだ、もう!」
扉越しに、女性の声が聞こえてくる。
春の風が、彼女の髪をくしゃくしゃにかき乱し、慌てさせていた。
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