第二章

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今日も、いる。 窓の外に、青年の姿を認めた。 いつか見た、背の高い青年は、同じように窓から中を覗き込んできた。 奥二重の瞼から覗く黒目が、室内をキョロリと巡って、私で止まる。 その瞬間、私は咄嗟に彼から隠れるようにして、背を向けていた。 どうして、こんなに動揺しているのか、自分のことながら理解できなかった。 やけにうるさく鳴る心臓が、部屋中に響いてしまう気さえする。 本当に、体の外まで音が聞こえていたのだろうか。 呼んでもいないのに紫苑が部屋に入ってきた時には、思わず飛び上がりそうになった。 「なに、驚いてるの」 紫苑は、うさんくさそうな目つきになる。 が、なんでもないというふうに、なんとか平静を装って首を振ると、彼女は気のない様子で顔をそむけた。 幸いなことに、私が恐る恐る目を向けた先に、もう青年の姿はなかった。
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