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唐突に話を変えたことで、相手はムッとしたらしい。
自分の気持ちを知らしめるように、何秒か答えようとはしなかった。
しかし、女は気にしない様子で再び訊ねる。
「聞いてんの?この前、占いの話をしてたの、あんたじゃなかったっけ?」
そこで、ようやく相手が答えた。
無言の抵抗をすることは、無駄だと気が付いたらしい。
「何の話だっけ?」
と言ってから、思いついたというふうに声をワントーン高めて続けた。
「ああ、あの占い師のことか。
駅前の桜並木の坂があるでしょ?
その坂を下りたところの正面に店があるんだけど……結構、いつもお客さんが並んでるんだよね。
そこに、この前バイトの友達と行ったの」
と、楽しげに説明をしてから、付け加えた。
「興味あるの?」
「ないよ。ただ、ちょっと思い出しただけ」
冷たい風が、彼女の髪をかきあげ、形のいい耳をあらわにする。
ほくろが、まるでピアスのように耳を飾っていた。
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