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何を占ってもらったの、だとか、それは当たっていたの、だとか訊ねてこない女に、携帯電話は困ったように黙り込む。
が、やがて再び声を伝え始めた。
「あんたも彼氏との相性占ってもらえばいいじゃん」
と、携帯電話の向こうで、楽しげに笑うのが聞こえてくる。
しかし女は、ニコリともせずに答えた。
「あいつと?だったら、もっと金持ちで格好いい人が現れないかを聞くよ」
「……最低」
つい本音が口をついてしまったのだと、相手が息をのむのを聞いて分かった。
それでも彼女は、大したことではないという様子で
「今さら気が付いたの?」
と、笑うばかりだった。
女は、ゆっくりと坂道を下って行った。
まだ花のない桜の木は、寒々しい。
突然、冷たい風が足元から吹き上げてきて、思わずくしゃみをした。
電話の相手が、まるで女が最高の冗談を言ったかのように笑い声をあげた。
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