第一章

4/8
156人が本棚に入れています
本棚に追加
/210ページ
「あなたが待っているだけでは、この人のほうから話しかけてくることはないでしょうね」 がっくりと肩を落とす女の子。 しかし紫苑は安心させるように、うなずいてみせた。 表の上を滑る彼女の手は、驚くほど白く、青い筋が何本も浮き出ているのが、よく見える。 年齢不詳。それは紫苑のために作られたんじゃないかと思うほど、彼女によく似合う言葉だと、私は思う。 40歳は過ぎているはずなのに、肌は透き通るように白く綺麗なままで、髪には艶がある。 「正直に言って、この人との相性はよくないわ」 と、紫苑は言って、表に数字を書き加えた。 極端に右肩上がりの癖のある字。 それが呪文のように、つらつらと並べられていく。 「でも、来月か再来月には、ほかに気になる人が出てくるかもしれない」 「本当ですか?」 「ええ。あなたが、よく周りを見ていれば、気が付くでしょうね。 この人のほうが、相性は良いはずよ」 と、励ましの言葉が続く。 私は、すっかり興味がなくなってしまって、女の子から窓の外へ視線をうつした。 最近は客も増え、外で人が待っていることも多い。 今も1組のカップルが、何事か囁きあいながら、時折中を覗き込むようにして順番を待っている。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!