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幼い私は、よく夢を見ていた。
夢というのは将来の目標や野望という夢ではなく、睡眠中に見る幻覚の方。
深海に潜り古代の遺跡を探検したり、背中から翼が生えて空を自由に羽ばたいたり、時にはゾンビに襲われて、ボロボロになりながら逃げ回ったり。
非現実な内容が多かったが、まるで本当にその世界を生きたかのような感覚になることが多かった。
そんな私の幻想の中に、よく登場していた人物がいた。
ここではその人を『私』と表現する。
というのも、見た目は今現在語り手である私にそっくりなのだ。
癖のある茶色の長髪をなびかせて、赤く燃える剣を振り回す姿が未来の私であることを強く願っていた。
いつか自分もそんな女性になりたい、そんなことを考えながら剣を持てば捕まるこの現実世界を生きてきた。
その日も『私』の夢を見た
舞台は静かな森の中で、登場人物は三人だけ。
『私』と、白髪の女性と、金髪の女性。
白髪の女性は苦しんでいて。
金髪の女性は泣き喚いていて。
『私』は笑っていた。
白髪の女性をよそに、金髪と『私』が何やら言い合っている。
喧嘩なんていう陳腐なものではなく、深刻な空気があった。
「―――」
『私』は腕を大きく広げた。全てを受け止めるとでも言うかのように胸を張り、曇りのない笑顔を見せる。
その瞬間、爆発音が響く。森は瞬く間に炎に包まれて、ゴウゴウという音と共に空を真っ赤に染め上げた。
金髪の女性が零した涙すら、すぐに蒸発させてしまうほどの熱だ。
「ごめん、ごめん……」
顔を大きく歪ませた金髪の彼女は、『私』へと銃を向ける。
そして、ゆっくりと引き金を引いた。
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