《15》

9/22
前へ
/262ページ
次へ
直井さんは、どこか決まり悪そうに頷いた。 「……今は、羽鳥と名乗ってます」 「…………そっか…」 直井姓から、羽鳥という姓に変わったと言う彼女。 結婚して名字が変わっても、俺の中では、直井さんは直井さんのまま。 負け惜しみって訳じゃないけど、聞き慣れない名字よりも、彼女は直井姓の方が似合っている気がする。 あくまでも、認めたくない訳じゃないけど。 「我が家も次男にせがまれて来てみたのですが、あまりにも人が多くて……主人に任せてこの子と退散してきた所です」 彼女は、抱いている女の子をいとおしそうに見詰めた。 「そっか、中の方はもっと人凄いんだ……ウチはわざと開場より遅らせたんだけど、結局意味なかったみたい。駐車場なくて車停めるのやっとだった」 「もうごった返してます」 笑いながら「戦場のようです」と言う彼女が大切そうに抱く女の子。 じっと、睨むように俺を見ている。 「可愛いね。1歳過ぎくらいかな?」 「んにゃっ!!」 下膨れたほっぺに向けて伸ばした手を思いっ切り弾かれた。
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12664人が本棚に入れています
本棚に追加