《15》

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「…………あの時は、ごめんね?酷い事言って…」 振られちゃえばいいのに………なんて。 我ながら、最低な言葉を選んだと思う。 「今となっては、あの時に何て事を言ってしまったんだろうって後悔しかなくって……ごめん」 「あの時……?」 意を決して切り出した俺に、直井さんは不思議そうに小首を傾げた。 と、すぐに“あの時”というのを思い出したらしく「いえ」と笑う。 「そう言われても仕方がありませんでしたから…」 「帰りも一人で帰れって………最低だよね。本当に、ごめん…」 過去の事を掘り返して謝罪を繰り返す俺に、彼女は「謝らないで下さい」と。 「あれは、状況的に仕方がないと思いますよ。田嶋さんなりの優しさであり、私を気遣ってのものだと私の中で解釈してます」 「それに……」と、彼女は続ける。 「何度も謝られると、逆に許せなくなります。私、真性のひねくれ者なので」 「……ひねくれ者?」 「えぇ、主人からそう言われています。不本意ながら………まぁ、自覚はありますけど」 大真面目な顔で突飛な事を言うもんだから、つい噴き出しそうになってしまった。 結婚して誰かのものになっても、彼女は相変わらず、彼女のままなんだな……って。
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