真性異言「あるきたい」

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わたしも海に突き落とそうとした時に、数名の船員が飛び掛かった。 男は海に落ちて、フェリーのスクリューでバラバラになって死んだ。 海に落ちた子供は助からなかった。 我が子を失った悲しみで、わたしの心の壊れた。 そんなわたしを置いて、夫は自責の念に駆られて離婚した。 海に落ちる寸前の男の顔が忘れられない。 眠ると男の顔が目の前に浮かび、わたしを殺そうとする。 まるで地獄だった。 その地獄から救ってくれたのが今の夫だ。 すべてを受け入れて、夫はわたしと結婚してくれた。 そして授かった掛け替えのない子供。 今度こそ幸せになる― わたしは亡き子供に誓って、このフェリーの旅に出たのだ。 潮の流れが速い海に、子供の供養の花束を投げ入れる。 「ねぇ、真性異言(しんせいいげん)って知ってるかい?」 夫がわたしに訊ねた。
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