22人が本棚に入れています
本棚に追加
烈火がいなくなったその場で、奏は壁に身を預けしゃがみ込む。
くしゃりと前髪を掻き揚げて、大きなため息をついた。
「…悠。輝」
彼女であり、
彼女ではない彼女の名を呼ぶ。
どれだけ名前を呼んでも彼女は答えてくれない。
「もう一度。君に逢いたい」
愛しい存在に。
自分の傍で、あの日の様に。
浮かぶのは、
彼女の笑顔。
泣き顔。
怒った顔。
どれもこれも愛しい彼女の表情。
「君が好きだ」
彼女の残像に手を伸ばす。
掴むことはなく空気に溶けるように消えていった。
「でも、この想いはもう、赦されない」
彼女は彼女であって彼女ではないから。
あの日。あの時にもう一度戻りたいと、
そう、切に願った。
最初のコメントを投稿しよう!