-一章 想-

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烈火がいなくなったその場で、奏は壁に身を預けしゃがみ込む。 くしゃりと前髪を掻き揚げて、大きなため息をついた。 「…悠。輝」 彼女であり、 彼女ではない彼女の名を呼ぶ。 どれだけ名前を呼んでも彼女は答えてくれない。 「もう一度。君に逢いたい」 愛しい存在に。 自分の傍で、あの日の様に。 浮かぶのは、 彼女の笑顔。 泣き顔。 怒った顔。 どれもこれも愛しい彼女の表情。 「君が好きだ」 彼女の残像に手を伸ばす。 掴むことはなく空気に溶けるように消えていった。 「でも、この想いはもう、赦されない」 彼女は彼女であって彼女ではないから。 あの日。あの時にもう一度戻りたいと、 そう、切に願った。
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