-三章 切-

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「「有難う御座いました」」 左手に竹刀を持ち、それを腰に当てて、互いに向き合い礼をする。 頭を上げて目の前にいる人物と向き合って数秒、静かな時が流れた。 「ふー。やっぱり強いね。女の子とは思えないよ」 先に沈黙を破ったのは目の前にいる人物だった。 面を取りながら紡がれた言葉に私は同じ様に面を取りながら言葉を返す。 「お世辞はよしてください。勝ったのは先輩なんですから」 瞬間、沖浦先輩の表情が、悲しそうな、嬉しそうな、懐かしそうな。 なんとも形容しがたい表情になる。 どうしてだろう。 そんな彼の表情が酷く懐かしく感じた。 会って間もないはずなのに…… 懐かしくて、どこか切ないこの気持ちは何だろう。 胸の奥がこう、暖かくなる感じは…… 「…う、ん……悠ちゃ。悠ちゃん」 「へ…?あっ…」 どうやら胸に手を当てたままボーっとしていたらしい。 気が付けばすぐ目の前に防具を全て外した沖浦先輩がいて、私の顔を覗き込んでいる。 「どーしたの?ぼーっとして」 「ななななななんでもありませんっ!!!!!」 すぐに距離をとってブンブンと左右に顔を振る。 び、美形過ぎて辛いよ。 そりゃ烈火で多少は、慣れてるけど。 でも…っ でも…っ 「やっぱり美形は凶器だよーーっ!!」 防具をつけたまま、下に置いていた面を片手に更衣室まで全力でダッシュする。 すみません、沖浦先輩。 貴方が美形過ぎて、ちょっと辛いッス。 あぁ…こんな調子で私、剣道部でやっていけるのかな… なんてったって美形ばっか… はたして、一般人の私が何処まで耐えられるのやら…
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