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「やぁ、久しぶりだね。沖田。僕のこと、覚えてる?」
悠の姿が見えなくなった後、烈火は微笑して口を開いた。
彼と違う彼の名だったものを呼ぶ。
そんな烈火の言葉に奏も微笑し、「あぁ、もちろん」と答えた。
「んじゃあ、話は早いや」
くすっと肩を一度だけすくめてから、烈火は笑みを消し声のトーンを落として言葉を紡ぐ。
「悠は「悠姫」であって「悠輝」じゃない。だから、昔のことなんて覚えている必要ないし、思い出す必要もない。あんな辛いこと、忘れていた方がいい」
――…あんたは一度悠輝を独りにした。
だから悠の傍にいる資格なんてない。
そんな思いを込めた烈火の言葉に、奏は返す言葉が見つからず、ただ、黙って俯いていた。
「まぁ、そういうことで失礼しますね。生徒会副会長の沖浦奏先輩」
口調を「烈」から「烈火」のものへと戻し、烈火はニコリと笑顔を作った。
悠と同じ様に一礼して教室へと戻る道を急いだ。
そして、奏とすれ違う瞬間。
「悠は僕の彼女です。先輩には渡しません」
「――…っ」
ぱっと顔を上げた沖浦に烈火は笑みを見せてから、その場を後にした。
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