臆病の告白

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誰も歩いていない暗い夜道を、一人の男が歩いていた。 その男の名は山崎丞(やまざきすすむ)。 新撰組の諸士調役兼監察方で、仕事に関しては有能である。 「ここか……」 今夜は鴨川沿いの宿に泊まっている不逞浪士の長を暗殺するため、その役目を山崎は命ぜられた。 本来なら危険な任務ゆえ、一人で行うものではなく複数で行うものだ。 けれど山崎は一人で殺れると言って、屯所を出てきてしまったのだ。 そんな山崎を誰も止めないのは、しくじったことが今までで一度も無いからだ。 山崎は襟巻を口元まで上げて、宿に侵入した。 「桔梗の間」 この部屋に不逞浪士の長がいる。 山崎は襖に耳を当てて中の音を聞き、静かに部屋に入った。 (ふん、爆睡しやがって……) 布団を頭まで被ってしまっているため、顔の確認が出来ない。 不逞浪士の長は細身で高身長の男だと既に調べている。 けれど、もし違う人物を殺してしまったりしたら新撰組の名に泥を塗ることになるので、確認無しで安易に殺すことは出来ない。 山崎は勢いよく布団を引きはがした。 「……ひっ!!」 山崎は思わず悲鳴に近い声を漏らしてしまった。 そこにいたのは細身で高身長の男ではなく、変な水色の着物を着た女だったからだ。 (確かに、この部屋に入ったのを俺は昼に確認したんだ) 山崎は女の襟を掴んで揺すぶる。 そして目を開けたと同時に首元に刀を当てた。 「ん……まだ早いよ。もう少し寝かせてよ」 「ここの部屋に泊まるはずだった男はどうした!!」 山崎は左手で女の襟元を掴んで叫ぶ。 女は山崎と自身の首元の刀を見ると、顔を真っ青にさせた。
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