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「収まりましたか?」
「見張っていないからいけないんだと追い払った。だが、夕餉の飯の量が少なかっただろ?」
「そうでしたっけ?」
山崎は首を傾げる。
目の前に出されたからただ胃の腑に流し込んだだけで、何を出されたのかも覚えてやしないのだ。
「いずみさんは無事に発てたのか?」
庭を眺めながら山崎が頷くと、土方が思い切り山崎の肩を叩いた。
山崎は肩を擦りながら土方を睨む。
「今朝、寝坊しただろ?理由を聞かなかったが、いま言ってみろ」
寝癖を作って、息を切らして奉行所に駆け込んできた山崎。
皆は笑っていたが、斎藤と土方は何かを感じ取って目配せを交わしたのだった。
「疲れていただけですよ。滅多に寝坊はしないんですから、今回は見逃してくれたっていいでしょう」
山崎は顔を逸らす。
「その余裕のない感じ、若い頃を思い出すぜ……。懐かしいなぁ」
「下らない武勇伝は聞きたくないですからね。それでは、朝が早いのでもう寝ます」
立ち去ろうとする山崎を土方が引き止める。
「生きろよ」
山崎は腹部に手を当てた。
一番下に、いずみからもらった水色で水玉模様の端切れを腹に巻いている。
いずみと共に居るようでとても温かい。
歩けなくなっても、這いつくばっていずみの元へ行くのだ。
何としてでも、自分の声でいずみを呼んで抱き締めるのだ。
「どんな姿になっても俺は生きます」
山崎は土方に頭を下げると、大きく踏み出して歩き出した。
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