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『それの手取り早い手段は笑わせることか泣かせることだ』
「は?」
『笑うことにも、涙を流すことにも嫌な記憶を薄れさせて、心に掛かるストレスを軽減する作用があるらしい』
「そう言えば、どっかで聞いたような気がするな」
『だろ? だから美桜ちんはあの時、無理して笑ってたんじゃねぇーのか?』
「あの時?」
『お袋さんに会った時だよ。焼き肉屋で美桜ちんは必死で笑ってたじゃねぇーか』
「そうだな。笑ってたな」
『あの時、美桜ちんが必死で笑ってたのは、心のバランスと冷静さを保つ為じゃねぇーのか? 多分、本能的なもんだ』
「……」
『そうしてないと、現実に押し潰されそうな気がしたんじゃねぇーのか。あの場で泣かなかったのは、美桜ちんのプライドだ』
「そうかもしれねぇーな」
俺の脳裏にあの日の美桜が映った。
『そこで俺は良い考えを思いついた』
「いい考え?」
ケンの言葉に俺は嫌な予感がした。
こいつがこう言う時には、96%の確率でとんでもないことを言い出す。
ガキの頃から幾度となく身を持って体験している俺はそれを知っているからあまりしていなかった。
むしろ、またとんでもないことを言い出したら速攻で電話を切ろうと身構えていた。
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