第1章

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結婚8年目になる私は、すっかり夫への愛情も何も無くなっていた。 生理的に受け付けない存在へと変わりつつある。 役場へ行って離婚届の用紙を手にすると、私は直ぐに家に帰り静かにボールペンを滑らせた。 菅谷 麻紗 これが私の名前。 だけれど…この書類一枚で旧姓へと戻る…。 山河 麻紗 長い長い結婚生活にも終止符が打たれるんだな…。 しみじみと思いに浸りながら離婚届を夫の部屋へと、そっと置いて荷物をまとめて足早に出ていった。 早く先輩に会いたい一身でいっぱいだった。 私が出ていくと大騒ぎになる事は予想出来たが、これ以上には堪えられない。 こうするしか選択肢は無かったのだ。 はち切れそうな糸がプツリと切れたかの様に、涙が溢れ出てくる。 こんなになるまで我慢してたんだな。 幸せになるために結婚したのに、何で今は幸せになるために離婚するんだろうか。 答えの無い疑問が、脳内を駆け巡っては消えていく。 独身に戻って、恋も仕事もやり直そう。 落ちていく涙を拭きながら、私は歩調を速めた。 行き先は母親か一人で暮らしている、古い一軒家。 「ただいまー」 部屋の奥から足音が大きくなってくると、母親が驚きながら声をあげた。。 「うわーっ!!ドロボーかと思ったー!!」
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