第一章 ハジマリ

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「詩織、詩織……」 何故、こんな事になっているのだろう。 「詩織……」 ちょっとした用があり、仕事帰りに実家に寄って、自宅のアパートに少し遅く帰ると。 「……詩織、詩織」 電気もつけず、薄暗い部屋の中。 「詩お……り」 愛する妻が……。 「詩織いいいいぃぃぃぃ!」 死んでいた。 「ぁ……ぁあ……」 一体何をされたのか、見当もつかない。 「詩織……詩織……」 それ程までに、妻の体はズタズタに引き裂かれ、 「なんで……どうして……」 バラバラに解体されていた。 それは、いつもの様に抱きしめるだけで、簡単に崩れ落ちてしまいそうな程で。 「詩織ぃ……」 その体をそっと抱き上げると、案の定、くちゅ、とネバついた音が鳴り、ズルズルと中身が滑り落ちていく。 「あぁ……あぁ」 慌てて腕の中に残ったわずかな『物』を、それ以上零れ落ちてしまわない様に、ギュッと抱きしめる。 「う……ぁ……」 朝、腕の中の彼女に手渡された水色のワイシャツが、ジワリと赤い色に染まる感触を味わいながら。 「詩織ぃ……!」 『妻だった物』を、ただひたすらに抱きしめ続けた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加