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「ふぅ……」
亜矢が疲れたようにため息をつく。
ここまでこぎつけるのが、本当に大変だった。
亜矢の家は俗に言う、『お金持ち』の家だ。
だから今回の様な企画も立てられた。
とは言え、当たり前ではあるが、親にお金があるからと言って、好き放題使わせて貰えるものではない。
親に何度も頭を下げた。
親の知人にも何度も頭を下げた。
クラスメイト達に請求する旅行の参加費用を、出来るだけ安く済む様にと値段を比較して、あちこち駆けずり回りもした。
他にも、不参加の筈が突然参加したいと言い出す人がいたり、逆に参加の筈がギリギリになってやっぱり行かないと言いだす人がいたり、と。
色々大変だった。
本当に苦労した。
語り尽くせない程の問題を解決して、やっとここまで来る事が出来たのだ。
けれど――
「亜矢ちゃんおつかれ~」
どぶどぶとオレンジジュースの入った紙コップにウーロン茶が注がれる。
「杉並、本当にありがとうな。お前のお陰で、俺達本当にいい思い出が作れそうだよ。あ、これお前の分の皿な」
焦げて炭化した肉と野菜の切れ端が、たっぷり乗った紙皿が亜矢に手渡される。
「…………」
押し付けられた皿と紙コップを無言でその場に置くと、亜矢が二人に向かって走り出した。
「「逃げろ!」」
亜矢の紙コップにウーロン茶を注いだ少女と、コゲた野菜を押し付けてきた少年が全力で逃げる。
「ちょっとあんた達! 待ちなさい!」
――亜矢は思う。
大変ではあったし、苦労もしたけれど。
本当に、本当に。
今回の旅行を企画して、良かった、と。
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